2010年9月1日水曜日

アーカイブ②:シャガールのステンドグラス:シメオンとレビ

シメオン[שמעון]。
名前の意味:「聞かれた」もしくは「彼(神)は聴く」
(創世記29章33節)

「シメオンとレビは似た兄弟。彼等の剣は暴力の道具。私の魂よ、彼等の謀議に加わるな。私の心よ、彼等の仲間に連なるな。彼等は怒りのままに人を殺し、思うがままに雄牛の足の筋を切った。呪われよ、彼等の怒りは激しく、憤りは甚だしいゆえに。私は彼等をヤコブの間に分け、イスラエルの間に散らす。」(49:5〜7)

2枚目も青を基調としていますが、この青には、薄暗く、暗いイメージが漂います。ここに次男シメオンと三男レビの暗い過去が反映されています。その過去とはこうです。ヤコブ一家はシケムという町に宿営していた時期、彼等の妹ディナが無割礼の男に性的暴行を受けました。この事件をきっかけに、シケム人は責任を感じ、憤るヤコブ一族と和解しようとしました。無割礼の民シケム人はこれを機に割礼をユダヤ人から学ぼうとしたのです。ところが怒りを自制できないシメオンとレビは割礼を受けたばかりのシケム人男子全員を殺害するという行動を起こしたのです。

絵の中央下に円が描かれています。円の中には分けられた世界が描かれています。その上の左右に赤い二つの円、二羽の鳥、そして二頭の動物が描かれています。これはそれぞれ交わることなく反対方向に向って動いています。父ヤコブの呪いを象徴しているのでしょう。


レビ[לוי]。
名前の意味:「結びついた」「つながれた」
(創世記29章34節)

三男レビに対する父の遺言は、兄シメオン同様厳しいものだったはずです。然しレビはイスラエル民族の祭司としての特別な役割を得て、12部族の中に散らされるという運命を背負うことになりました。その運命を象徴する色として、シャガールは金色を選びました。シメオンとは実に対象的な色です。二羽の鳥と二頭の動物も、シメオンの絵とは対象的に、向き合っています。表情もあります。「レビ」という名前の意味からインスピレーションを受けたのか、この絵には二者間が結びつく様が描かれています。ユダヤ人の「結びつき」を更に強調するためか、シャガールは、絵下中央に十戒を、その左右にシャバットに灯すろうそく、その手前に葡萄酒の杯を描き、その頭上にダビデの星を描きました。

アーカイブ①:シャガールのステンドグラス:ルベン

先月、エルサレム市エンカレムのハダサ病院敷地内に在るシナゴーグに行ってきました。このシナゴーグ内に、ユダヤ人画家マルク・シャガール(1887〜1985)が手掛けた有名な「イスラエル12部族のステンドグラス」があります。フランスのランス市で2年半を費やし作成されたと云うこのステンドグラスは、最初パリのルーブル美術館に、その後ニューヨーク近代美術館に展示されました。そして1962年、シャガールの希望通り、エンカレムのこのシナゴーグに設置されました(写真上)。

わざわざここまで見学に来れない方々のために(エルサレムに住んでいても中々来ない場所なので)、これから12枚の絵の一つ一つをここに紹介することにします。

12枚のステンドグラスは、ヤコブの12人の息子たちに託した言葉(創世記49章)から霊感を受けて描かれています。各絵は、息子たちのヘブル語名の意味、父ヤコブのそれぞれへの遺言、そして絵の解説という順で紹介させて頂きます。

最初は、
ルベン[ראובן]
名前の意味:「見よ。子を。」
(創世記29章3節)

「ルベンよ。お前は私の長子、私の勢い、命の力の初穂。気位が高く、力も強い。お前は水のように奔放で、長子の誉れを失う。」

「ルベンは沸き立つ水」と父が表現した様に、この絵は水色を基調としています。シャガールは、天地創造第二日の、未だ手つかずの空と海の色も表現したかったのか。その自然界の荒っぽさとルベンを重ねて見たのか。シャガールは青い世界に鳥や魚を描きました。右下に咲く赤い花は、ルベンの母レアを表したものです。その赤色は、長男ルベンの母に対する愛情の表れだとも云われています。




ブロガー帰国のお知らせ

ブログ「サファイアの空」を読んで下さる皆様、
イスラエルからのニュースは今月を持ちまして終了することになりました。

去る5月から、個人的に大きなプロジェクトを抱えていた私は、それが終了するまで何も手に付かない状態でした。イスラエル・ニュースを楽しみにしていた方々には申し訳ありません。

8月下旬、プロジェクトを終えた私は家族で最後の夏をテルアビブで過ごし、ようやく新年度を迎える心の準備が整ってきました。しかしプロジェクト終了と同時に、来月の日本帰国が本決まりになりました。

という訳で、エルサレムの声をお届けしていましたが、
今月一杯で打ち切りにさせていただきます。

今月の残された数回は、話題性、ニュース性にとらわれず、「私個人のために」記事を足していくことにします。私のアーカイブに興味があれば、開いてみて下さい。

イスラエル新年がもうすぐ始まります。
皆様の上に天来の平安がありますように。
シャローム!

2010年5月22日土曜日

イスラエルのフルーツと聖書

今週はシャブオットがありました。シャブオットに関しては去年記事に取り上げたのでここをご覧下さい→「シャブオットその1」、「シャブオットその2」。ユダヤ教3大祭りの一つのシャブオットは、シナイ山でモーセが神の律法を受けたという聖書的伝承を記念しますが、その宗教祭に加え、農耕祭の要素も含んでいます。聖書は次ぎのように述べています。

申命記8章9〜10節「そこ(イスラエル)は、あなたが十分に食物を食べ、何一つ足りないもののない地。‥‥‥だからあなたが食べて満ち足りたとき、主が賜わった良い地について、あなたの神、主をほめたたえなければならない。」その前の節(同章8節)に神が賜ったとされる7つの産物が列記されています。それらは小麦、大麦、ぶどう、いちじく、ざくろ、オリーブ、そして蜜(なつめやしの蜜、もしくは蜂蜜)です。

世俗派はもっぱら宗教祭としてより農耕祭としての要素を強調するので、巷ではハーベスト・フェスティバル一色になることもしばしば。

今日はイスラエルを代表するフルーツ、それもタナフ(旧約聖書)にも新約聖書にも紹介されているフルーツとその聖書的特性を紹介します。


■葡萄(ブドウ):旧約時代から「ぶどう狩り」は楽しい村のイベントでした。葡萄を収穫しながら歌い踊るのです。タナフを読むと、この地の民は、収穫祭で神に感謝のうたを唄い、採れた葡萄を神に捧げたとあります。足で葡萄を潰すと赤い汁と皮が取れます。ご存知のように、その汁はワインの材料になります。残った皮は天然酵母として利用し、それでパンを膨らませた。ワイン作りがうまくいけば香しいワインになりますが、その工程で雑菌が入ると、ワインが酢に転じてしまうこともあります(バルサミコ酢のようになるのでしょうか)。新約聖書では、ナザレ人イエスがこの葡萄の木を彼自身の姿に似せたという記事があります。人の足で潰されて滲み出る赤い汁は、死刑台から流れる赤い血潮にも例えられます。その赤い汁は、どの工程を通るかで、香しいワインにも、酸っぱい汁にもなります。そのことを踏まえたイエスは、ぶどうの譬え話を語りました。それは「信じる」という工程を、どうやら聴衆に知らせたかったようです。


■無花果(イチジク):エデンの園から存在したといわれる(創世記3章7節)聖書中最も古い果物がイチジクです。イチジクは生でも乾燥させても食せる栄養価満点の美味しいフルーツです。実の収穫は夏から秋。熟した実は腐りやすく、農夫は頃合いを見て収穫します。収穫の時期が遅くても早すぎてもいけず、その「頃合い」というのが難しいのだそうです。つまり農夫のみが収穫の最善の時を知っているという訳です。イエスは「イチジクの木から、たとえを学びなさい。」(マタイ伝24章32節)と説いています。そのたとえでは「頃合い」を知る農夫が「イスラエルを守る神」で、一方、収穫の実はイスラエルなのだそうです。


ざくろ:イスラエルでは、ざくろはその色と形から最も美しいフルーツと考えられています。ざくろの萼(がく)を空に向けると冠の様に見えることから、エルサレム神殿の至聖所の柱のデザインにざくろが使われました。ペサフ(過越しの祭り)からシャブオットの時期(5旬節)に花をつけ、夏に実を結びます。その実は神に捧げられました。聖書の雅歌(4章3節)には、花嫁の高揚した美しい表情を、ざくろのようだと譬えています。またざくろは、外側の美しい容姿に加え、内側に多くの実ををつけることから、今日のイスラエルでは結婚式のパンフレット等のデザインにざくろが好んで用いられます。美しい花嫁が子宝に(そして天来の祝福に)恵まれますように、という願いを込めるようです。

■タマル(なつめやし):チグリス・ユーフラテス川が流れるメソポタミア地方の代表的な果物といえば、なつめやしです。英名はデ—ツ(デイト)、こちらではタマルと呼びます。なつめやしは荒野に流れるわずかな水分を吸収して実を結びます。蜜のように甘いなつめやしの実は生命(特に祝福された人生や永遠の命)を象徴していると言われ、イスラエルではトゥビ・シュバット(樹木の新年祭:1〜2月頃)やスコット(仮庵の祭り)の際に好んで食用されます。

オリーブ:地中海が原産とされるオリーブ。その花は5月、その実は10月と一般的に言われています。聖書時代、オリーブから取れる油は、香油の一つとして扱われ、最高品質のオリーブオイルは神に捧げられました。古代イスラエル王国では、新しい王の就任式で、その頭にオリーブオイルを垂らして祝福しました。又、その昔、オリーブの枝で笊を造ったり、オリーブ材で家具を造ることもありました。現在もカトリック教会のギフトショップではオリーブ細工を見かけます。これは聖書時代の名残というよりは、どうやらオリーブ圧搾機が起点になっているようです。聖書時代とイエスの時代、オリーブから油をとる工程で欠かせないものが石臼のような圧搾機でした。まるい石臼の中央に収穫した実を入れ、石臼を回しながら実を潰して油を取り出すという、この圧搾機。ヘブル語で「ガッシャムナ」と呼びます。イエスが取り押さえられた場所を「ゲッセマネ」と呼ぶのはこの「ガッシャムナ」を語源としていると言います。取り押さえられた現場に、オリーブ林や製油所があったのでしょうか。それとも、イエスという人物が「神に捧げる聖油となるためにオリーブの実の様に潰された」という民間信仰に起因しているのでしょうか。今日のオリーブ細工には、イエス時代から受け継がれたそのような謂れがあるのかもしれません。イスラエルに来たら、ぜひ聖書時代の圧搾機を探してみてください。



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