2009年8月30日日曜日

エルルの月(8〜9月)=ユダヤ民間歴の”師走”

このブログの右側下方に「西暦とユダヤ暦」を表示しています。これまで気づかなかった方は、この説明を読みながらこの表示を見てみてください。ここにCivil DateとHebrew Dateという表記がありますが、Civil Dateは欧米諸国や日本で使うグレゴリアン暦(西暦)です。Hebrew Dateというのはイスラエルで使うカレンダーで聖書で定められた民間暦です。ちなみに聖書には農耕サイクル(収穫時期など)と祭り事と合わせた宗教暦もあります。ですからイスラエルでは、ペサフなどの宗教に関するお祭りにはこちらの宗教暦を用いますが、学校や民間企業などでは民間暦やグレゴリアン暦を用います。さて右側下方のHebrew Dateによると、今日は「5796年エルルの月10日、ヨムリション(日曜日)」ということになります。


このエルルの月はユダヤ民間暦の“師走”、つまり12月になります。そしてもうすぐユダヤ民間暦の新年ロシュハシャナがやってきます。この「エルルの月」は「一年を振り返って自己を反省する月」とされており、ユダヤ人が「神」や「罪」を最も意識する時期です。宗教や正統派ユダヤ教の教えに特に関心のない、要するに世俗派のユダヤ人でさえこのエルルの月は心のどこかに畏怖の念を抱き、ロシュハシャナ(新年)が来るまでの29日間を“自分の心を探る時”とするようです。


ユダヤ人の伝統的な考えでは、ロシュハシャナに神が「命の書」を開き、前の年のそれぞれの行いによって、新しい一年の行く末を書き記すと考えられています。例えば、ロシュハシャナが始るまでの29日間に「心から反省して罪を悔い改めた者」に対しては、神はその者の過ぎ去った一年の言動を許し、「命の書」に“善人”として記録して下さるそうです。エルルの月は、シナゴーグで朝ごとに角笛を鳴らして民衆に自己反省を促します(写真)。


一方、イスラム教徒は、この時期をラマダンの月と呼んで断食をします(写真)。ラマダンはマホメットが天使ガブリエルより聖典コーランを授かった月とされており、昼の断食をもって心身をアッラーのために聖別します。“昼断食”ということで、夜は断食解除となり、夜の飲食が自由になるとか。こうした偏食により、ラマダンの月が明けるとむしろ体重が増えていたという話も聞きます。またラマダン中は家に閉じこもることが多く、イスラム教徒のテレビ視聴率があがるという統計も出ています。


宗教行為の動機と内容に違いはあれ、ユダヤ教、イスラム教ともども今月はまるでキリスト教のレント期間(春に持つこのレント期間には、多くのキリスト教徒が自己反省し、よみがえりのメシアを待望します)のようです。


祈り)ラマダンで“心身のきよめを願う”イスラム教徒と、エルルの月に“罪のゆるしを乞う”ユダヤ教徒とが、出会うべき神と出会って、真のきよめや罪のゆるしを経験できますように。

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2009年8月23日日曜日

ヨルダン国のパレスチナ系市民への冷遇措置

去る7月20日、ヨルダン政府とパレスチナ暫定自治区双方から意外な公式発表がありました。それは国王(アブドゥッラー2世)の判断で、ヨルダンに住む数千人のパレスチナ系市民の国籍が無効になるというものです。つまり市民権の剥奪です。彼等は国からの公的援助が得られなくなり、今後外人同様の扱いを受けるというのです。人口630万の約7割がパレスチナ人(親がパレスチナ人の場合、ヨルダン生まれの子供もパレスチナ人と考える)というヨルダン国にとって、これは随分と思い切った同胞への対応です。

ヨルダン国(左図の死海東側に位置。黄緑色の国)は立憲君主国家のため、民主的にパレスチナ人を政府高官には入れておらず、国民の意見は繁栄されません。政権は1921年にアラビヤ半島からやってきたアラビヤの王族(アブドゥッラー1世とその家族)が建国から今日まで実権を握っています。そのため国王の考えが政治と直結しています。そのヨルダン政府の発表では、中東戦争期間(1948〜1973年)に流入してきたパレスチナ人はパレスチナ暫定自治区へ帰るべきだというのです。この中東戦争ですが、これは1948年5月14日のイスラエル建国宣言の数時間後に、ヨルダンをはじめとするアラブ諸国が奇襲攻撃をして始った戦争です。この時パレスチナ人たちが戦争による被害を受けて難民となっているのです。難民を作ったのはイスラエルのせいではなく、戦争のせいなのです。その難民に対しての責任をヨルダンが取るというかたちになり、流浪のパレスチナ人達へはヨルダン国籍が与えらました。しかし今になって彼等に「難民帰還権」(1948年のイスラエル建国でヨルダンに避難した難民が家に戻る権利)という権利が押し付けられ、せっかくヨルダン国に落ち着いたのに彼等は国外に出るように言われているのです。国王の考えでは、ヨルダンが英国統治下にあった期間(1921年〜1948年)に流入したパレスチナ人は正式な国民なのだそうです。けれども、それ以降にヨルダンに移民したパレスチナ人を非国民と認定しまっていいのでしょうか。当然パレスチナ側は納得できません。

なぜイスラエル建国年以降のパレスチナ人はヨルダンに定住できないのでしょうか。パレスチナ人のヨルダン移住/定住に何か問題があるのでしょうか。今ヨルダン国は、ガザ在住のパレスチナ人がヨルダン国へ流入するのを恐れています。又こうした動きの水面下で、「パレスチアナ人達のヨルダン移民をイスラエル政府が歓迎している」又「ネタニヤフ首相はヨルダン国をパレスチナ国家に見立てている」等の噂も流れ始めました。こういう噂を誰が立てるのかはわかりません。勝手に噂を立てられてイスラエル側も困っている様子です。しかしヨルダン国としてはこれらの噂を認めるわけにはいかず今回の処置を取ったようです。

当然ながらこの処置は、ヨルダン人とパレスチナ人の関係を気まずくしています。ヨルダン国では、地元の青年達が「パレスチナ人はイスラエルと手を組む裏切り者だ」となじるようになり、同じアラブ人同士なのに内部分裂の兆候がでています。

またどういうわけか、このニュースはアラブ諸国では問題にはされていません。国際世論や人権団体もガザ戦争の時はパレスチナ人達への人権をあれ程叫んだのに、ヨルダン国内のパレスチナ人達が基本的人権や市民権を失い始めている現状には黙っています。黙認しているのでしょうか。もしイスラエルがヨルダン政府に倣ってイスラエル国内のパレスチナ系市民を追放でもしようものなら、アラブ諸国も欧米諸国も黙ってはいないでしょうに。世界中の人権団体もイスラエル・バッシングの大合唱を始めるでしょうに。

さらに不審な点は、ヨルダン国王のアブドゥッラー2世の妃ラーニア夫人(写真)はパレスチナ人なので彼女の立場がどうなるかです。もちろん他のパレスチナ人のように追放されることは決してありません。ラーニア夫人は、世界で最も美しい王妃といわれ、パレスチナ人の誇りでもありますから。しかし王妃としていかに同胞のもどかしい気持ちを汲み取るのでしょうか。

祈り)ヨルダン国建国の背景を考えるなら、パレスチナ人を守り、自立させるのがヨルダン国の使命だと思うのですが。。。しかし現状はそうではないようです。政治上矛盾だらけで不安定な世界にいるパレスチナ人たちのためにも、アラブ諸国のパレスチナ人に対する政策が統一されていきますように。ヨルダンを含むアラブ社会が安定しますように。

参考)7月21日付け エルサレム・ポスト紙[記者:Khaled Abu Toameh]

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2009年8月15日土曜日

シリアの水資源の枯渇化とイスラエル

シリアには重要な川が2つあります。ペルシャ湾に注ぐ大河ユーフラテス川(写真上)と地中海に注ぐオロンテス川(写真下)です。この地域は西アジアには珍しく、豊かな水資源を持ち、歴史的にも様々な文明が栄えてきました。農業に関していえば、シリアは実に数百年も前から川の水や降雨水に依存する天水農業を営んできました。しかし、ここ2〜3年、干ばつがシリアを襲い、川が干上がり、シリアの農業は危機にさらされています。また水資源の破壊は国民の生活に深刻な影響を及ぼしつつあります。


水資源を守るには、川の使用水量を考えねばなりません。ところがユーフラテス川上流でトルコ人が水を塞き止めてしまい、中流や下流の水量が減ってそれどころではなくなりました。シリアの国土を流れるもう一つのオロンテス川でも、ここ数年で川の水位が下がってきました。オロンテス側の水はしょっぱくなり、水質が落ちて飲めなくなりました。オロンテス川の魚も減っています。汚染された川では、当然食料としての川魚は採れません。専門家の話では、トルコ圏内の川の使用水量とシリアの干ばつがこのまま続けば、10年後にシリアやイラクを流れるユーフラテス川は完全に干上がるだろうと言われています。


これまでシリアでは、水利用に関する規制は緩く、住民が好き勝手に井戸を堀り、貴重な地下水も乱用されてきました。シリア国内には4万2千程の井戸の存在が確認されており、その半数は違法に掘られたといいます。こうした地下水源の不法搾取によって地下水の枯渇化も進んでいます。水が無いシリアの農民はどうしているのでしょうか。


シリアは小麦、オリーブ油、果物、野菜、肉などの食料輸出国です。これらの食料輸出は国の経済を支え、シリアのGDPの2割を占めるようになりました。人口約2千万人のシリア国民の約半数が農業か酪農を通して収入を得ていると言われています。しかし今年の国内小麦収穫量は推定89万2千トンとされており、前年の130万トンを大幅に下回りそうです。オリーブ油の品質も低下しており、地元のオリーブ油製造業者によると、オリーブ油は年々酸っぱくなってきたということです。食料輸出国としてのシリアは、今後、食料輸入国へと転じていくのでしょうか。


今年、国連が農民の生活状況を調査したところ、農民の25万人が農地から離れ、テントでその日暮らしをするという“難民状態”にあることが分かりました。更にはこれら25万人は政府からなんの援助も受けていないということです。


この農業国シリアが今注目している水資源はヨルダン川とガリラヤ湖です。もちろんゴラン高原のシリヤ側の水資源に早く手をつけたいのでしょう。ご存知でしょうか。すでにイスラエルは隣国ヨルダンとの和平条約で、この水をヨルダンに分け与えています。去年から続くイスラエルの水不足は、ヨルダンに水を提供するだけで精一杯で、シリアの分まではありません。ここにシリアが加わりゴラン高原とガリラヤの水資源の奪い合いが本格化すれば、瞬く間にヨルダン川は、大河ユーフラテス川よりも先に干上がってしまうことでしょう。


祈り)雨が降って残念がるのは日本人です。しかしこの地域の反応は逆です。雨が降れば手を挙げて喜ぶのです。干ばつが続けば、シリア、ヨルダンがイスラエルを相手に“水戦争”をしかけるでしょう。こうなる前に雨が降りますように。恵みの雨が大地を潤してくれますように。


参考)7月27日付けロイター通信[記者:khaled yacoub


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2009年8月7日金曜日

聖書時代の割礼、今に活きる:エイズと闘うイスラエルの試み



割礼とは、聖書用語で、ペニスの包皮切除のことを指します(写真左)。宗教的ニュアンスを除けば、包茎手術とも言えます。けれども単なる医療行為とは違い、包茎手術の歴史は、ユダヤ教やイスラム教の間で施される割礼と深く関わり、それが聖書に基づいたものであることは言うまでもありません。


さて聖書を読むと、アブラハムが妻サラを通じて約束の子イサクを設けた時、神はこの赤児に対し生後8日目の割礼を定めています(創世記17章11〜14節)。こうして割礼による“包皮切除の跡”は神と人との関係を確認する印となりました。今日もユダヤ社会では、聖書に基づいて生後8日目の赤ちゃんに割礼を施します。イスラム社会でも割礼が地域的に普及しました。そして伝統的に13才の男子に割礼を施しています。なぜ8日目ではないのでしょうか? この伝統もやはり聖書に起因するようです。こちらの伝統は彼等の祖イシマエル(アブラハムが側女ハガルを通じて生んだ“非約束の子”)が13才で割礼を受けたため(同書25節)と考えられています。
ところで割礼の目的を、例えば性病を防ぐためといった“衛生上”のものであるという解釈は、後代に付加された様です。今日の統計では割礼した男性の方が無割礼の男性よりもエイズなどの性病に感染しにくいという結果が出ており、今では聖書の割礼が見直されつつあります。又去る3月には、米国とウガンダの研究チームが「割礼が性器ヘルペスやがんの原因にもなるウイルス感染のリスクを軽減する」と発表しました。
又、世界保健機関(WHO)と国連合同エイズ計画(UNAIDS)は、異性間性交渉によるHIV感染が広がっている地域(特にアフリカ中南部)では、感染リスクを低減させることができるとして割礼を推奨しています(2007年以降)。国連の調査結果では、仮にアフリカ 人男性のほとんどが割礼を受けていれば、HIV感染による死者を実に570万人も減らすことができるとしています。

近年、アフリカ諸国の中でエイズ予防に力を入れ、HIV感染拡大防止に成功している国はセネガルです。この国の成功の背景には、イスラム教国セネガルが、かつてイスラエルに医療専門家3名を派遣し、ユダヤ式包皮切除の医療技術を学ばせたという歴史があります(写真:マネキンで割礼の仕方を学ぶ医師たち)。もちろんイスラム圏には13才男子への割礼はありましたが、アフリカのイスラム諸国でこの割礼伝統はあまり守られていませんでした。こう語るのはイスラエル医学シミュレーション・センター(MSR)のヤアロン・ミンズ医師(Dr. Yaron Minz)です。ミンズ医師は、成人男子への割礼の場合、イスラエルはレベルの高い医療技術を持っていると言います。それはイスラエルでは近年、割礼を受けていないロシア系やエチオピア系ユダヤ人の移民の増加と、彼等成人男子たちへの割礼件数が増えてきたためだと言います。

数年前、イスラエルの医療チームはエイズ感染率がアフリカで最も高いスワジランドへ行きました。そこでスワジの医師10名に割礼手術のテクニックを教えました。これを受けてアフリカ各地からは今日医師団がイスラエルにまで来るようになり、安全で手早い割礼手術を学んでいるといいます。もちろんユダヤ式の幼児割礼手術も学んで帰るそうです。

今日セネガルは、サブサハラ・アフリカ地域でエイズ感染率(1.7%代)が最も低い国となりました。周辺諸国には感染率が4割を超える地域もあることを考えると、エイズ予防に割礼手術を実験的に取り入れたセネガルは、期待以上の成果を収めたといえます。今、セネガルでは成人男性の95%が割礼を受けています。この割礼の定着化にはイスラム教の伝統と合致したことが大きな理由といえます。(左の図:色が濃い地域ほど感染率は高い)


ミンズ医師いわく、セネガルに倣う周辺諸国はエイズ予防にと割礼を取り入れ始めているということです。それにともないイスラエルの医療チーム(主に
Jerusalem AIDS Project 等のNGO)は、アフリカの若い医師達への医療教育に力を入れ始めています。又イスラエルの医療チームが割礼を通して性教育にも力を入れており、「エイズ予防」をテーマにして国家間の関係改善をはかることができればと、ミンズ医師は今後の抱負を語っています。

祈り)エイズ予防や性教育に対してもそうですが、割礼(又は包茎手術)そのものへの偏見も未だある人にはあるように思います。それらが無くなり、予防としての割礼が用いられますように。そしてアフリカを初めとする世界各地にまん延する性病が減ることを願います。
参考)7月28日付け:イスラエル21c[“Jewish ritual as AIDS prevention tool” By Karin Kloosterman] 3月26日付け:ロイター通信[男性の割礼、がんの原因となる性感染症も予防=研究


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