2010年9月12日日曜日

アーカイブ⑥:シャッガールのステンドグラス:ヨセフとベニヤミン

ヨセフ[יוסף]
名前の意味:「(神が)加えた/増やした」(創世記30:22〜24)


「ヨセフは実を結ぶ若木。泉のほとりの実を結ぶ若木。その枝は石垣を超えて伸びる。
弓を射る者たちは彼に敵意を抱き、矢を放ち、追いかけてくる。
しかし、彼の弓はたるむことなく、彼の腕と手は素早く動く。
ヤコブの勇者の御手により、それによって、イスラエルの石となり牧者となった。
どうか、あなたの父の神があなたを助け、全能者によってあなたは祝福を受けるように。
上は天の祝福、下は横たわる淵の祝福、乳房と母の胎の祝福をもって。
あなたの父の祝福は、永遠の山の祝福にまさり、永久の丘の賜物にまさる。
これらの祝福がヨセフの頭の上にあり、兄弟たちから選ばれた者の頭にあるように。」
(創世記49:22〜26)


父ヤコブから最も愛されたヨセフは、兄達から妬みを買い、エジプトへ奴隷として売られていきます。父は彼は死亡したと思い、こうして十数年の月日が流れていきました。悲運の少年ヨセフは、その間、エジプトで苦境を乗り越え、数々の幸運にも恵まれるようになりました。やがてエジプトのパロ(君主)から宰相に任ぜられていきました。この聖書像に照らし、シャガールは「ヨセフの色」を金色としました。金色は、収穫期の麦穂であり、ヨセフの栄光を称える色なのでしょう。又、絵の左上の紫の鳥に高貴なヨセフの生き様を重ね見ました。鳥の頭の冠は、父ヤコブの祝福が彼の頭に注がれることを意味するようです。


絵の頭上に、二つの手に握られたショファール(雄羊の角笛)が描かれています。ヨセフの栄光を称えるかのように、この角笛の音は絵全体に響き渡ります。絵を鑑賞する者の耳にまで響いてきそうです。ユダヤ教の伝統では、角笛の音は、「神の招きの声」であり、真の礼拝への呼びかけです。時には「戦いの時が来た」という警報です。又メシア到来への期待から、霊的な意味での警報でもあります。さて、絵の中のショファールには、当然こうした意味合いが含まれているでしょう。


絵の左下の赤い木もまたヨセフを象徴するものです。ヨセフにはエフライムとマナセという二人の息子がおり、赤い木の二本の太い枝が二人の息子達を指しているといわれています。聖書ではこの息子達は、ヤコブの祝福を受けて、イスラエル12部族の2部族として数えられました。


ベニヤミン[בנימין]
名前の意味:「私の痛みの子」(創世記35:18)もしくは「右側の子」


「ベニヤミンはかみ裂く狼。
朝には獲物に食らいつき、夕には奪ったものを分け合う。」
(創世記49:27)

ベニヤミンは、ヤコブの最後の息子です。ヤコブが愛した妻ラケルは、ベニヤミンを出産して直ぐ亡くなりました。彼の名前には二つの意味があります。ラケルの「痛みの子」であったベニヤミンは、兄弟達から愛されて彼等の「右にいる子」となりました。「右側」は聖書では、力と祝福の形容詞です。シャガールはこの意味を捉えようとしたのでしょうか。絵の中心に11人の兄達を象徴して11個の円を描き、一つ一つの円を、兄達の象徴色で塗りました。ではベニヤミンはどこに描かれているのでしょうか。


シャガールは、絵の左下に赤い目をした狼を描きました。父ヤコブがベニヤミンを「獲物をかみ裂く狼」に例えたように、シャガールも赤い狼で例えました。


赤い狼の背後に、金色に輝くエルサレムが存在します。これはシャガールのエルサレムに対する自信の願望、または祈りなのでしょうか。よく見ると金色の町には城壁が無く、全ての者に開かれた神の都として描かれています。


2010年9月5日日曜日

アーカイブ⑤:シャッガールのステンドグラス:ダン、ガド、アシェル、ナフタリ

ダン[דן]。
名前の意味:「正しく裁いた」(創世記30:5〜6)

「ダンは自分の民を裁く。イスラエルのほかの部族のように。
ダンは、道ばたの蛇、小道のほとりに潜む蝮(マムシ)。
馬のかかとを噛むと、乗り手は仰向けに落ちる。」
(創世記49:16〜17)

「裁き」を意味するのがダンの名前です。冴えた頭の中を描いているのでしょうか。この絵には「裁き」を象徴するものがいくつかあります。まずは中央の燭台ですが、これは裁きの天秤にも見えます。その天秤の右側に赤茶色の動物が、その右手に—右手は聖書では「正義の手」を意味します—剣を持っています。次ぎに蛇です。父からおまえは蛇だと例えられたダンは、この蛇のように裁きの天秤にまとわりつく部族なのでしょうか。絵の右下にいる3頭の馬が—裁きが下ったのか—裁きの剣から目を背けています。

シャガールは、絵の中央右に彼が子供の頃住んだ「白い家」を描きました。彼は幼少期にベラルーシ共和国のヴィテプスク市で過ごしています。ダンと自身を重ねたシャガールもまた、正義を求める男だったのでしょうか。

ガド[גד]。
名前の意味:「幸運な」(創世記30:9〜11)

「ガドは略奪者に襲われる。
しかし、彼は、彼等のかかとを襲う。」
(創世記49:19)

ガドは戦士の部族と呼ばれました。ガド部族はガリラヤの肥沃な土地に住んだゆえに、周辺の異なる民族と幾度も衝突しては戦うという、常に強い防衛力を求められた部族でした。絵全体の、薄暗い緑色は、この部族の運命を物語っているのでしょうか。中央の鳥は盾で身を守り、右側の動物たちは剣を振りかざしています。火を吹く野獣は、戦争のスケールを物語っています。ちなみに、左端の塔は宿敵ペリシテ人の塔と云われています。

この戦争の渦中でけなげに植物が育っている様(左下)は、ガド族—その名が示すように—彼等の運の強さか。戦争とは対面にある命の存続と成長が描かれています。


アシェル[אשר]
名前の意味:「祝福された」「幸せにされた」(創世記30:12〜13)

「アシェルには豊かな食物があり、王の食卓に美味を供える。」(創世記49:20)

ガド族のくすんだ緑とは対象的に、アシェル族の絵はオリーブ色です。オリーブはイスラエルを代表する植物の一つです。オリーブから取れる油は美しい緑色で、香しく、体にも良く、つまり食と健康に、そして生活に(特に燭台の油として)必要不可欠な存在でした。神殿内を照らす七枝の燭台(絵の中央)にも、オリーブ油は欠かせません。オリーブは、イスラエル民族の生活と宗教の両面で「豊かさと喜び」を意味しました。絵のオリーブ色は、その「祝福された」というアシェルの意味に相応しい色です。

絵をご覧下さい。オリープの葉をくわえた鳥(絵の上)は、福音を知らせる「ノア物語の鳩」でしょうか。宙に舞いながら、平和の訪れを告げています。その真下には、王冠を頭にのせて、翼を大きく広げる鳥がいます。この鳥は、まるで自信に満ちた王のように振る舞っています。


ナフタリ[נפתלי]

名前の意味:「私は闘った」「わが戦い」創世記30章7〜8節

「ナフタリは解き放たれた雌鹿。美しい子鹿を産む。」(創世記49:21)

父の言葉にあるように、ナフタリは「鹿のように」小高い丘をかけまわる元気で勇敢な青年へと成長したのでしょう。その肉体的な美しさや強さと、神信仰から来る強さも持ち合わせていたのかもしれません。ハバクク書の記者は、神を信じる者は力を受けて、雌鹿のように高い所を駆け回ることができる(3章19節)とありませすから。こうした力を持つナフタリとその子孫は、名前のごとく「戦う」民へと成長していったはずです。さて、敵に勇敢に立ち向かう聖書像とは異なり、シャガールの鹿は実に優雅です。背景色は、砂漠の色か、夏の色か、まぶしい程に黄色です。この地域にこの色は「厳しさ」を印象づけますが、鹿の頭上には、この厳しさを一変させるような、楽しそうに宙に舞う鳥が一羽描かれています。この鳥は、勝利の喜びを体で表現しているのでしょうか。 

アーカイブ④:シャッガールのステンドグラス:ゼブルンとイサカル

ゼブルン「זבלון」
名前の意味:「一緒に住む」創世記30章20節

「ゼブルンは海辺に住む。そこは舟の出入りする港となり、その境はシドンに及ぶ。」
(創世記49:13)

ゼブルン一族は海辺で共同生活をしました。シャガールは、今まさに地中海におちようとする紅い夕陽を絵の中央に描き、全てをこの夕紅で包みました。夕紅は、父ヤコブの人生最期を映している様にも、また後に残す子供たちへの彼の燃えるような思いを描いている様にもとれます。夕紅の西の空に、舟と海の魚たちとそれらを取り巻く世界が包まれていきます。大きな2匹の魚が空に舞う様は、ゼブルンの繁栄を象徴しているのでしょうか。


イサカル「יששכר」
名前の意味:「報酬」「対価」創世記30章18節

「イサカルは骨太のろば、二つの革袋の間に身を伏せる。
 彼にはその土地が快く、好ましい休息の場となった。
 彼はそこで背をかがめて荷を担い、苦役の奴隷に身を落とす。」
(創世記49:14〜15)



父より「骨太のろば」と例えられたイサカル。ロバは馬と異なり戦争には適さず、農業に適する動物です。ならば、イサカルは平和を求める農夫の部族といます。シャガールはイサカルの色を緑「広大な畑の色」と定めました。この畑で、—父の預言にあるように—イサカルは「休息を得る」のでしょうか。ロバの頭を青く染めたのは、その休息と平和の強調でしょうか。

この絵は、葡萄の枝葉から覗き込むように描かれています。そこから緑の牧場で戯れる動物たちや平和な町を覗くことができます。この絵の中央、ロバの上に、二つの手が在ります。これは、ユダの絵と同様に「祝福の手」ともとれます。しかしこれは同じ母を持つゼブルン(赤い手)とイサカル(緑の手)の兄弟愛の堅さを表現したとのことです。

2010年9月1日水曜日

アーカイブ③:シャガールのステンドグラス:ユダ

ユダ[יהודה]。
名前の意味:「ありがとう」「賛美」
(創世記29章35節)

「ユダよ、あなたは兄弟達に称えられる。あなたの手は敵の首を押さえ、父の子達はあなたを伏し拝む。ユダは獅子の子。私の子よ、あなたは獲物を取って上って来る。彼は雄獅子の様にうずくまり、雌獅子の様に身を伏せる。誰がこれを起こすことができようか。王笏はユダから離れず、統治の杖は足の間から離れない。ついにシロが来て、諸国の民は彼に従う。彼はろばをぶどうの木に、雌ろばの子を良いぶどうの木につなぐ。彼は自分の衣をぶどう酒で、着物をぶどうの汁で洗う。彼の目はぶどう酒によって輝き、歯は乳によって白くなる。」(49:8〜12)

父ヤコブは、葡萄酒で染めた赤い衣で四男ユダを祝福したかったのか。後にユダの部族からは、ダビデやソロモンという王が誕生します。シャガールもワインレッドを基調としてこの絵を手掛け、絵の上に王冠を描きました。その冠の中に「ユダ」という名前をヘブル語で刻んでいます。

開いた手は、祝福の手。神の都エルサレムで、来るべき王を仰ぐ手です。
中央には紅いライオン。シャガールはその目を青く塗りました。ライオンの背後には、光に包まれる「エルサレム」も描きました。こうして「獅子の子ユダ」に相応しく、美しく雄々しく栄えるユダとイスラエルの民を強調しました。

今日、エルサレムが、市のシンボルマークに「ライオン」を選んだのは、この「獅子の子」という父ヤコブの祝福が背景にあるようです。ちなみに、右下に(よく見えませんが‥)シャガールのヘブル語によるサインがあります。シャガールは12枚描いた絵の中、この絵にのみサインをし——それもヘブル語で名を残すことによって——ユダヤ民族の一員としての誇りを見せました。


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