2010年9月5日日曜日

アーカイブ⑤:シャッガールのステンドグラス:ダン、ガド、アシェル、ナフタリ

ダン[דן]。
名前の意味:「正しく裁いた」(創世記30:5〜6)

「ダンは自分の民を裁く。イスラエルのほかの部族のように。
ダンは、道ばたの蛇、小道のほとりに潜む蝮(マムシ)。
馬のかかとを噛むと、乗り手は仰向けに落ちる。」
(創世記49:16〜17)

「裁き」を意味するのがダンの名前です。冴えた頭の中を描いているのでしょうか。この絵には「裁き」を象徴するものがいくつかあります。まずは中央の燭台ですが、これは裁きの天秤にも見えます。その天秤の右側に赤茶色の動物が、その右手に—右手は聖書では「正義の手」を意味します—剣を持っています。次ぎに蛇です。父からおまえは蛇だと例えられたダンは、この蛇のように裁きの天秤にまとわりつく部族なのでしょうか。絵の右下にいる3頭の馬が—裁きが下ったのか—裁きの剣から目を背けています。

シャガールは、絵の中央右に彼が子供の頃住んだ「白い家」を描きました。彼は幼少期にベラルーシ共和国のヴィテプスク市で過ごしています。ダンと自身を重ねたシャガールもまた、正義を求める男だったのでしょうか。

ガド[גד]。
名前の意味:「幸運な」(創世記30:9〜11)

「ガドは略奪者に襲われる。
しかし、彼は、彼等のかかとを襲う。」
(創世記49:19)

ガドは戦士の部族と呼ばれました。ガド部族はガリラヤの肥沃な土地に住んだゆえに、周辺の異なる民族と幾度も衝突しては戦うという、常に強い防衛力を求められた部族でした。絵全体の、薄暗い緑色は、この部族の運命を物語っているのでしょうか。中央の鳥は盾で身を守り、右側の動物たちは剣を振りかざしています。火を吹く野獣は、戦争のスケールを物語っています。ちなみに、左端の塔は宿敵ペリシテ人の塔と云われています。

この戦争の渦中でけなげに植物が育っている様(左下)は、ガド族—その名が示すように—彼等の運の強さか。戦争とは対面にある命の存続と成長が描かれています。


アシェル[אשר]
名前の意味:「祝福された」「幸せにされた」(創世記30:12〜13)

「アシェルには豊かな食物があり、王の食卓に美味を供える。」(創世記49:20)

ガド族のくすんだ緑とは対象的に、アシェル族の絵はオリーブ色です。オリーブはイスラエルを代表する植物の一つです。オリーブから取れる油は美しい緑色で、香しく、体にも良く、つまり食と健康に、そして生活に(特に燭台の油として)必要不可欠な存在でした。神殿内を照らす七枝の燭台(絵の中央)にも、オリーブ油は欠かせません。オリーブは、イスラエル民族の生活と宗教の両面で「豊かさと喜び」を意味しました。絵のオリーブ色は、その「祝福された」というアシェルの意味に相応しい色です。

絵をご覧下さい。オリープの葉をくわえた鳥(絵の上)は、福音を知らせる「ノア物語の鳩」でしょうか。宙に舞いながら、平和の訪れを告げています。その真下には、王冠を頭にのせて、翼を大きく広げる鳥がいます。この鳥は、まるで自信に満ちた王のように振る舞っています。


ナフタリ[נפתלי]

名前の意味:「私は闘った」「わが戦い」創世記30章7〜8節

「ナフタリは解き放たれた雌鹿。美しい子鹿を産む。」(創世記49:21)

父の言葉にあるように、ナフタリは「鹿のように」小高い丘をかけまわる元気で勇敢な青年へと成長したのでしょう。その肉体的な美しさや強さと、神信仰から来る強さも持ち合わせていたのかもしれません。ハバクク書の記者は、神を信じる者は力を受けて、雌鹿のように高い所を駆け回ることができる(3章19節)とありませすから。こうした力を持つナフタリとその子孫は、名前のごとく「戦う」民へと成長していったはずです。さて、敵に勇敢に立ち向かう聖書像とは異なり、シャガールの鹿は実に優雅です。背景色は、砂漠の色か、夏の色か、まぶしい程に黄色です。この地域にこの色は「厳しさ」を印象づけますが、鹿の頭上には、この厳しさを一変させるような、楽しそうに宙に舞う鳥が一羽描かれています。この鳥は、勝利の喜びを体で表現しているのでしょうか。 

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