2010年9月1日水曜日

アーカイブ③:シャガールのステンドグラス:ユダ

ユダ[יהודה]。
名前の意味:「ありがとう」「賛美」
(創世記29章35節)

「ユダよ、あなたは兄弟達に称えられる。あなたの手は敵の首を押さえ、父の子達はあなたを伏し拝む。ユダは獅子の子。私の子よ、あなたは獲物を取って上って来る。彼は雄獅子の様にうずくまり、雌獅子の様に身を伏せる。誰がこれを起こすことができようか。王笏はユダから離れず、統治の杖は足の間から離れない。ついにシロが来て、諸国の民は彼に従う。彼はろばをぶどうの木に、雌ろばの子を良いぶどうの木につなぐ。彼は自分の衣をぶどう酒で、着物をぶどうの汁で洗う。彼の目はぶどう酒によって輝き、歯は乳によって白くなる。」(49:8〜12)

父ヤコブは、葡萄酒で染めた赤い衣で四男ユダを祝福したかったのか。後にユダの部族からは、ダビデやソロモンという王が誕生します。シャガールもワインレッドを基調としてこの絵を手掛け、絵の上に王冠を描きました。その冠の中に「ユダ」という名前をヘブル語で刻んでいます。

開いた手は、祝福の手。神の都エルサレムで、来るべき王を仰ぐ手です。
中央には紅いライオン。シャガールはその目を青く塗りました。ライオンの背後には、光に包まれる「エルサレム」も描きました。こうして「獅子の子ユダ」に相応しく、美しく雄々しく栄えるユダとイスラエルの民を強調しました。

今日、エルサレムが、市のシンボルマークに「ライオン」を選んだのは、この「獅子の子」という父ヤコブの祝福が背景にあるようです。ちなみに、右下に(よく見えませんが‥)シャガールのヘブル語によるサインがあります。シャガールは12枚描いた絵の中、この絵にのみサインをし——それもヘブル語で名を残すことによって——ユダヤ民族の一員としての誇りを見せました。

アーカイブ②:シャガールのステンドグラス:シメオンとレビ

シメオン[שמעון]。
名前の意味:「聞かれた」もしくは「彼(神)は聴く」
(創世記29章33節)

「シメオンとレビは似た兄弟。彼等の剣は暴力の道具。私の魂よ、彼等の謀議に加わるな。私の心よ、彼等の仲間に連なるな。彼等は怒りのままに人を殺し、思うがままに雄牛の足の筋を切った。呪われよ、彼等の怒りは激しく、憤りは甚だしいゆえに。私は彼等をヤコブの間に分け、イスラエルの間に散らす。」(49:5〜7)

2枚目も青を基調としていますが、この青には、薄暗く、暗いイメージが漂います。ここに次男シメオンと三男レビの暗い過去が反映されています。その過去とはこうです。ヤコブ一家はシケムという町に宿営していた時期、彼等の妹ディナが無割礼の男に性的暴行を受けました。この事件をきっかけに、シケム人は責任を感じ、憤るヤコブ一族と和解しようとしました。無割礼の民シケム人はこれを機に割礼をユダヤ人から学ぼうとしたのです。ところが怒りを自制できないシメオンとレビは割礼を受けたばかりのシケム人男子全員を殺害するという行動を起こしたのです。

絵の中央下に円が描かれています。円の中には分けられた世界が描かれています。その上の左右に赤い二つの円、二羽の鳥、そして二頭の動物が描かれています。これはそれぞれ交わることなく反対方向に向って動いています。父ヤコブの呪いを象徴しているのでしょう。


レビ[לוי]。
名前の意味:「結びついた」「つながれた」
(創世記29章34節)

三男レビに対する父の遺言は、兄シメオン同様厳しいものだったはずです。然しレビはイスラエル民族の祭司としての特別な役割を得て、12部族の中に散らされるという運命を背負うことになりました。その運命を象徴する色として、シャガールは金色を選びました。シメオンとは実に対象的な色です。二羽の鳥と二頭の動物も、シメオンの絵とは対象的に、向き合っています。表情もあります。「レビ」という名前の意味からインスピレーションを受けたのか、この絵には二者間が結びつく様が描かれています。ユダヤ人の「結びつき」を更に強調するためか、シャガールは、絵下中央に十戒を、その左右にシャバットに灯すろうそく、その手前に葡萄酒の杯を描き、その頭上にダビデの星を描きました。

アーカイブ①:シャガールのステンドグラス:ルベン

先月、エルサレム市エンカレムのハダサ病院敷地内に在るシナゴーグに行ってきました。このシナゴーグ内に、ユダヤ人画家マルク・シャガール(1887〜1985)が手掛けた有名な「イスラエル12部族のステンドグラス」があります。フランスのランス市で2年半を費やし作成されたと云うこのステンドグラスは、最初パリのルーブル美術館に、その後ニューヨーク近代美術館に展示されました。そして1962年、シャガールの希望通り、エンカレムのこのシナゴーグに設置されました(写真上)。

わざわざここまで見学に来れない方々のために(エルサレムに住んでいても中々来ない場所なので)、これから12枚の絵の一つ一つをここに紹介することにします。

12枚のステンドグラスは、ヤコブの12人の息子たちに託した言葉(創世記49章)から霊感を受けて描かれています。各絵は、息子たちのヘブル語名の意味、父ヤコブのそれぞれへの遺言、そして絵の解説という順で紹介させて頂きます。

最初は、
ルベン[ראובן]
名前の意味:「見よ。子を。」
(創世記29章3節)

「ルベンよ。お前は私の長子、私の勢い、命の力の初穂。気位が高く、力も強い。お前は水のように奔放で、長子の誉れを失う。」

「ルベンは沸き立つ水」と父が表現した様に、この絵は水色を基調としています。シャガールは、天地創造第二日の、未だ手つかずの空と海の色も表現したかったのか。その自然界の荒っぽさとルベンを重ねて見たのか。シャガールは青い世界に鳥や魚を描きました。右下に咲く赤い花は、ルベンの母レアを表したものです。その赤色は、長男ルベンの母に対する愛情の表れだとも云われています。




ブロガー帰国のお知らせ

ブログ「サファイアの空」を読んで下さる皆様、
イスラエルからのニュースは今月を持ちまして終了することになりました。

去る5月から、個人的に大きなプロジェクトを抱えていた私は、それが終了するまで何も手に付かない状態でした。イスラエル・ニュースを楽しみにしていた方々には申し訳ありません。

8月下旬、プロジェクトを終えた私は家族で最後の夏をテルアビブで過ごし、ようやく新年度を迎える心の準備が整ってきました。しかしプロジェクト終了と同時に、来月の日本帰国が本決まりになりました。

という訳で、エルサレムの声をお届けしていましたが、
今月一杯で打ち切りにさせていただきます。

今月の残された数回は、話題性、ニュース性にとらわれず、「私個人のために」記事を足していくことにします。私のアーカイブに興味があれば、開いてみて下さい。

イスラエル新年がもうすぐ始まります。
皆様の上に天来の平安がありますように。
シャローム!


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