シリアには重要な川が2つあります。ペルシャ湾に注ぐ大河ユーフラテス川(写真上)と地中海に注ぐオロンテス川(写真下)です。この地域は西アジアには珍しく、豊かな水資源を持ち、歴史的にも様々な文明が栄えてきました。農業に関していえば、シリアは実に数百年も前から川の水や降雨水に依存する天水農業を営んできました。しかし、ここ2〜3年、干ばつがシリアを襲い、川が干上がり、シリアの農業は危機にさらされています。また水資源の破壊は国民の生活に深刻な影響を及ぼしつつあります。
水資源を守るには、川の使用水量を考えねばなりません。ところがユーフラテス川上流でトルコ人が水を塞き止めてしまい、中流や下流の水量が減ってそれどころではなくなりました。シリアの国土を流れるもう一つのオロンテス川でも、ここ数年で川の水位が下がってきました。オロンテス側の水はしょっぱくなり、水質が落ちて飲めなくなりました。オロンテス川の魚も減っています。汚染された川では、当然食料としての川魚は採れません。専門家の話では、トルコ圏内の川の使用水量とシリアの干ばつがこのまま続けば、10年後にシリアやイラクを流れるユーフラテス川は完全に干上がるだろうと言われています。
これまでシリアでは、水利用に関する規制は緩く、住民が好き勝手に井戸を堀り、貴重な地下水も乱用されてきました。シリア国内には4万2千程の井戸の存在が確認されており、その半数は違法に掘られたといいます。こうした地下水源の不法搾取によって地下水の枯渇化も進んでいます。水が無いシリアの農民はどうしているのでしょうか。
シリアは小麦、オリーブ油、果物、野菜、肉などの食料輸出国です。これらの食料輸出は国の経済を支え、シリアのGDPの2割を占めるようになりました。人口約2千万人のシリア国民の約半数が農業か酪農を通して収入を得ていると言われています。しかし今年の国内小麦収穫量は推定89万2千トンとされており、前年の130万トンを大幅に下回りそうです。オリーブ油の品質も低下しており、地元のオリーブ油製造業者によると、オリーブ油は年々酸っぱくなってきたということです。食料輸出国としてのシリアは、今後、食料輸入国へと転じていくのでしょうか。
今年、国連が農民の生活状況を調査したところ、農民の25万人が農地から離れ、テントでその日暮らしをするという“難民状態”にあることが分かりました。更にはこれら25万人は政府からなんの援助も受けていないということです。
この農業国シリアが今注目している水資源はヨルダン川とガリラヤ湖です。もちろんゴラン高原のシリヤ側の水資源に早く手をつけたいのでしょう。ご存知でしょうか。すでにイスラエルは隣国ヨルダンとの和平条約で、この水をヨルダンに分け与えています。去年から続くイスラエルの水不足は、ヨルダンに水を提供するだけで精一杯で、シリアの分まではありません。ここにシリアが加わりゴラン高原とガリラヤの水資源の奪い合いが本格化すれば、瞬く間にヨルダン川は、大河ユーフラテス川よりも先に干上がってしまうことでしょう。
祈り)雨が降って残念がるのは日本人です。しかしこの地域の反応は逆です。雨が降れば手を挙げて喜ぶのです。干ばつが続けば、シリア、ヨルダンがイスラエルを相手に“水戦争”をしかけるでしょう。こうなる前に雨が降りますように。恵みの雨が大地を潤してくれますように。
参考)7月27日付けロイター通信[記者:khaled yacoub]
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