2009年2月21日土曜日

村上春樹「エルサレム賞」


今月15日、作家の村上春樹さんがエルサレムにおいて「エルサレム文学賞」を受賞されました(写真:イスラエル大統領シモン・ペレス氏と村上氏)。

村上氏の受賞スピーチは「47NEWS」で読むことができます。
村上春樹さんの文学はイスラエル国内でも良く読まれていますが、彼のスピーチは多くのエルサレム市民には不評だったようです。

村上氏が「卵の殻と中身」をイスラエル軍とガザ住民に例えたと思われるこのスピーチは、日本では多数の新聞記事やコラムで「勇気ある批判」として讃えられました。私個人としては、村上氏がもう少し中東情勢の実態を掴んでいたら、異なる表現を選んでいただろうにと考えました。しかし日本の一般市民に否定的な見方が増えるのも、報道の仕方に偏りがあるからなのでしょう。

下記は「47NEWS」に記載された各新聞社の村上氏のスピーチに関する報道の一部です。詳しくは先に記したサイトでじっくり読んでみて下さい。抜粋したのは偏った表現と思われる箇所です。**は私のコメントです。

ー(長崎新聞のコラムから)「作家、村上春樹さんは、イスラエルの文学賞「エルサレム賞」をあえて受ける決断をした。イスラエルはガザ空爆で大勢の民間人を殺害している。賞を受ければ、その戦争犯罪を認めてしまうことにならないかと、受賞を引き止める声もあった。15日の授賞式で村上さんは、戦争を起こす体制を壁、人間を壊れやすい卵に例え、「わたしは常に卵の側に立つ」と言い切った。戦争当事国に乗り込んで真摯(しんし)に命の尊さを説くその姿は、世界の人々の魂を揺さぶった。」**「戦争犯罪」は戦争を交わした両者の側にそれぞれあります。ガザ住民を苦しめてきたテロ組織の存在と、イスラエルに自爆テロやロケットを送り込む行為を度外視しての「戦争犯罪」は不適切です。「村上さんは‥‥命の尊さを説く」ーもちろんです。しかしコラムニストは、ユダヤ人はまるで命の尊さを知らない民族であるような印象を読み手に与えています。彼等はホロコーストを乗り越えた民族なのに‥‥。

ー(四国新聞のコラムから)「村上さんは欧州系言語以外の作家としては初めて、同国の文学賞を受賞した。それ自体は快挙だが、折しもパレスチナ自治区ガザへの無差別攻撃があったばかり。辞退すべきとの声も上がっていた。だが彼はあえて受けた。」**「無差別攻撃」との表現を使用したコラムニストは、国防軍が何を前提に闘っているのか、どこに焦点を合わせて攻撃したかが分かっていない様です。

ー(信濃毎日新聞のコラムから)「さらに村上さんは言葉を継ぎ、卵は独自の心を持ったわたしたち一人一人、壁は「制度」だと説明。この制度が、わたしたちを殺したり、他人を殺させたりする、と述べた。イスラエルに当てはめると、自らを守る正当な攻撃として、パレスチナ人を殺させる国家も制度なのだろう。」**イスラエルに「パレスチナ人を殺させる制度」があるなら立証して欲しい。ガザ住民はユダヤ人を助けるために真実な証言をすると「スパイ行為」を働いたとしてハマスに首を刎ねられます。一方、イスラエルには、テロリストや囚人を死刑にする法律はありません。

ー(共同通信の記事)「イスラエルの文学賞、エルサレム賞の受賞が決まった作家の村上春樹氏に対し、大阪市に拠点を置く非政府組織(NGO)『パレスチナの平和を考える会』がウェブサイトに掲載した公開書簡で「受賞はイスラエルの対パレスチナ政策を擁護することになる」として受賞辞退を求め、賛同者を集めている。同賞は「社会における個人の自由の理念を表現した著作の筆者」に与えられる。書簡は、イスラエルがパレスチナ自治区ガザで行った「虐殺や封鎖政策などはパレスチナ人の自由を抹殺する行為」だと指摘。村上氏の受賞により「イスラエルがあたかも自由を尊重している国であるかのようなイメージが流布される」と懸念を示している。書簡への賛同を示す署名は欧米諸国を中心に800件に達した。主催者のウェブサイトによると、村上氏は15日にエルサレムで開かれる授賞式に出席する意向を示した。同会の役重善洋事務局長は「受賞はイスラエルの人道犯罪に加担することになる」と主張。村上氏の事務所はコメントしていない。」**この非政府組織への賛同者がどれ程多くいても、共同通信社は、この組織が指摘する「ユダヤ人の虐殺行為」という点が、ユダヤ人への敵意に満ちた偏見であることを、調べた上で報道すべきでした。

これからの報道に、公平さと真実を暴いて伝える勇気が加えられることを願います。

英語の分かる方へ:村上氏のスピーチ(英訳)はハアレツ紙に掲載されていますが、その記事の下にはコメントの書き込みがあります。書き込みを読むと、日本人以外(多くはユダヤ人やアメリカ人ですが)の考え方が見えてきます。もしくは、あなたの考えを書き込み、世界に主張してみてはいかがでしょうか。

祈り)日本人がイスラエルで直面している実際的問題に気づきますように。

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