2009年11月14日土曜日

「信仰の敵」次々と襲った極右イスラエル人逮捕

11月7日付け産経新聞、大内清氏の記事をそのまま下記に添付します。イスラエル社会が右傾化してきているのでは、と地元のニュースでも大きく取り上げられています。——————————

イスラエルで10月、入植地に住むユダヤ教超正統派の男が逮捕された(写真)。男は12年間にわたり、パレスチナ人殺害やイスラエル人平和運動家襲撃、イエスを救世主として信奉するユダヤ人「メシアニック・ジュー」への爆弾テロを実行したほか、8月に同性愛者2人が殺害された事件に関与した疑いもある。民族、政治信条、信仰の違う人々を次々と標的にしていたこの男。同国メディアは、極端な宗教観に突き動かされた「テロリスト」として、生い立ちや思想的背景について大きく報じている。

 ■厳格な家庭・入植活動に傾倒

 男はヨルダン川西岸中部のイスラエル人入植地シュブト・ラヘルに住むコンピューター技術者、ヤコブ・テイテル容疑者(37)。8月にテルアビブで起きた同性愛者の襲撃事件を支持するビラを配ったとして10月7日、同国の国内情報機関シンベトと警察当局によって逮捕され、他の事件への関与についても供述を始めた。

 イスラエル紙ハアレツ(電子版)などによると、テイテル容疑者は1972年、米フロリダ州に生まれた。両親とも超正統派のユダヤ教徒で、幼いころから宗教的に厳格な家庭環境で育った。大学では心理学を専攻したという。

 90年代半ばごろから、ユダヤ人の若者の間で広まった西岸への入植活動に傾倒し、観光ビザを使ってイスラエルに頻繁に渡航するようになった。

 テイテル容疑者はその後、米国でコンピューターに関する資格を取得し、99年から実際に入植地で生活を開始。2000年にイスラエルに帰化した。3年後には英国出身のユダヤ人女性と結婚し、4人の子供をもうけた。

 ■「静かな性格」

 「物静かな性格で、ほかの入植者との付き合いも少なかった」

 親族ら関係者がこう口をそろえるテイテル容疑者。だが、その裏では、次々と凶悪犯罪に手を染めていた。

 これまでに判明しているだけでも、テイテル容疑者が実行したとみられている事件は多岐にわたる。

  ▽パレスチナ自治区ヘブロンでパレスチナ人の男性2人を射殺(イスラエル移住前の1997年)

  ▽「メシアニック・ジュー」の一家がプレゼントを装った爆発物を送りつけられ、15歳の息子が重傷(2008年3月)

  ▽パレスチナとの和平・共存を主張する平和運動家の大学教授宅に仕掛けられた爆弾が爆発し、教授がけが(同年9月)

  ▽同性愛者パレードの警備を担当した警察署の爆破未遂(時期不詳)

 同紙によると、当局では、8月にテルアビブの同性愛者集会所で男女2人が殺害された事件についても、仲間を使って襲撃させた可能性があるとみて調べを進めている。97年の別のパレスチナ人殺害事件にも関与していた可能性が高いという。

 ■信仰上の「敵」

 接点がないようにも見えるこれらの事件だが、狂信的なまでの超正統派ユダヤ教徒であるテイテル容疑者にとっては、いずれの事件の被害者も、信仰上、許すことのできない「敵」だったようだ。大学教授を狙った事件の現場近くには、ユダヤ教の教えに反する政策をとっているとして政府を激しく非難するメモも残されていた。

 こうしたことから、テイテル容疑者の犯行の動機には、西岸全土を含む土地をイスラエルの領土と見なしてパレスチナ国家を否定したり、同性愛者やメシアニック・ジューを異端視したりするユダヤ教強硬保守派の考え方が色濃く反映していることは間違いないとみられる。当局ではさらに動機の解明を進めるとともに、ほかに関与した事件がないか調べている。

 一方、同国の英字紙エルサレム・ポスト(電子版)によると、イスラエルでは近年、アラブ系女子校爆破未遂(2002年)や、アラブ系市民4人が殺害された事件(05年)などユダヤ教徒による凶悪犯罪が続発。パレスチナ人らを標的とした未解決事件も多い。

 それによってパレスチナ側の態度をさらに硬化させて報復を招くという面もあるだけに、メディアでは捜査当局に対し、こうした事件の摘発強化を求める声も高まっている。

感想)テイテル容疑者と並行して、ロシア移民のユダヤ人による一家6人殺害事件も最近のニュースでした。こちらは世俗派のユダヤ人の間で起きた事件。どちらも移民してきたユダヤ人ということで、移民したユダヤ人(アリヤー組)には痛いニュースです。またイスラム教徒を殺害したテイテル容疑者は、同胞をも—メシアニック・ジューや同性愛者でしたが—殺そうとしました。また彼の立場を擁護する超正統派のラビもどうやら存在するようで、ユダヤ教内の右派と左派の対立は今後激化しそうです。

祈り)イスラエルではユダヤ人の間にある左翼と右翼の対立は政界と宗教界の間にはつきものです。最近は大学内でも対立が目立っています。彼等がものさしとする「聖書」そのものの解釈にアカデミックな世界でも大きなズレが生じている様子。この大きなズレと議論と対立を通して、彼等が追求してやまない“神の義”—神の目から見て何が本当に正しいのかを—極めていけますように。

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