2009年12月13日日曜日

ネス・ガドール・ハヤー・ポ

左の写真はハヌカ祭の駒遊びにつかう駒です。四つのそれぞれの面にヘブル語の「פ」「ה」「ג」「נ」と記されています。これは ネス・ガドール・ ハヤー・ ポ」[意味: ここに以前大きな奇跡があった]というフレーズの頭文字です。「ここ」とは今私が住むエルサレムです。エルサレム以外に住むユダヤ人は「פ」の一文字を「ש」と置き換え「“あそこ”で以前大きな奇跡があった」というフレーズで駒遊びをします。ところで、”ここ”エルサレムでかつてどのような奇跡が起きたのでしょうか? 今日はこの駒遊びのフレーズが物語るハヌカ祭の歴史に焦点を当ててみることにします。


ハヌカ祭を祝う冬期、キリスト教徒は「処女マリヤが神の霊を受けてその母胎に生命を宿した」ことを記憶します。これは偉大な奇跡です。しかしその奇跡はエルサレムで起きたものではありませんでした。ハヌカ祭の奇跡は、聖書の外典とされるマカバイ記1〜4章に詳しく記されており、時代的には中間時代(紀元前4世紀からイエス誕生の年までを指す)の出来事です。死海写本を残したとされる共同体とも時代的背景が重なります。


そこで簡単に中間時代のパレスチナ地方の政治の説明をしておきましょう。

タナク(旧約聖書)の歴史はペルシャ時代をもって終了します。その後(紀元前332年)ペルシャ軍を倒したアレキサンダー大王はパレスチナを含む西アジア全域に勢力を延ばし、それにより時代はペルシャ時代からヘレニズム時代へ移行しました。パレスチナ地方のギリシャ化は、エジプトに拠点を置くプトレマイオス朝によって紀元前198年まで、それ以降はシリアに拠点を置くセレウコス朝によって推進されました。こうして西アジア全域は言葉も文化も宗教もギリシャ化されていき、ローマ軍が紀元前70年にエルサレムを攻め落とした後も続きました。


こうして近隣諸国が代わる代わるエルサレムを支配した中間時代、ある一時期、つまりマカベヤの反乱からの約百年間だけは、ユダヤ人たちはユダヤ教徒として自由に振る舞える時期がありました。この「ハスモニア王朝」と呼ばれる百年は、すでにギリシャ化したユダヤ人が、神殿礼拝を重んじ、ヘブル語を学び直してトーラーを読み、聖書の祭り事を回復させた意義深い時代だったのです。ハヌカは、この時代を築いた「マカベヤの反乱」と関係しています。


その反乱前のパレスチナ地方に話を戻しましょう。時のセレウコス朝皇帝アンティオコスはユダヤ人が宗教的にならぬよう数々の政策を打ち出しました。当時の宗教弾圧の様子はマカバイ記に記されています。「その内容は、他国人(異邦人)の慣習に従い、聖所での焼き尽くす捧げ物、いけにえ、ぶどう酒の献げ物を中止し、安息日や祝祭日を犯し、聖所と聖なる人々を汚し、異教の祭壇、神域、像を造り、豚や不浄な動物をいけにえとして献げ、息子たちは無割礼のままにしておき、あらゆる不浄で身を汚し、自らを忌むべきものとすること、要するに律法(トーラー)を忘れ、掟をすべて変えてしまうということであった。そして王のこの命令に従わない者は死刑に処せられることになった(1章44〜50節)」。続いて「キスレブの月の25日」には、神殿内に偶像が設置され、その後2年間は艱難時代でした。多くの信者が弾圧を受け、処刑され、彼等の聖文書は燃やされていったからです。ギリシャ的自由主義に基づいた反ユダヤ政策が激化していく中、ついに、民衆の中から祭司マタテアとその息子たちハスモン一族が立ち上がりました。息子の一人、ユダ・マカベウスが軍事蜂起を行い、ユダヤ人とギリシャ人との間に戦いが始まったのです。


この戦いでユダヤ民衆は見事にシリア系ギリシャ軍を倒し、神殿を奪回しました。そして彼等は神殿をもう一度潔めるために、ゼウス神が据えられた2年前の「キスレブの月の25日」を奉献日と定め、紀元前164年の同日、聖書の神ヤハウェに神殿を再奉献しました。奇跡はこの時に起こりました。当時、神殿内の燭台用オリーブ油は一日分しか確保できなかったといいます。それでも祭司らは一日分の油で薄暗い神殿内を照らすことにしたところ、燭台の灯火は8日間も点し続けたというのです。 これが「ネス・ガドール・ハイヤー・ポ」です。


興味深いことに、死海文書の「戦いの書」には闇の民と闘う"光の民"についての物語が記されています。マカベヤの反乱と直接結びついているかは分かりませんが、「戦いの書」はこの中間時代の宗教弾圧と戦いを土台として描かれています。


祈り)今日神の宮を再建し暗闇に光を点す者は誰なのでしょうか。光が見えない状態で、光の存在を信じ、光を点すために「闇」と闘う者たち全てに勇気が与えられますように。

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1 コメント:

sunny+K さんのコメント...

この記事を書きながら心に留めた聖書の言葉がありました。私が好きな言葉の一つです。
「光は暗闇の中で輝いている。」(ヨハネによる福音書1章5節)


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