ヨセフ[יוסף]
名前の意味:「(神が)加えた/増やした」(創世記30:22〜24)
「ヨセフは実を結ぶ若木。泉のほとりの実を結ぶ若木。その枝は石垣を超えて伸びる。
弓を射る者たちは彼に敵意を抱き、矢を放ち、追いかけてくる。
しかし、彼の弓はたるむことなく、彼の腕と手は素早く動く。
ヤコブの勇者の御手により、それによって、イスラエルの石となり牧者となった。
どうか、あなたの父の神があなたを助け、全能者によってあなたは祝福を受けるように。
上は天の祝福、下は横たわる淵の祝福、乳房と母の胎の祝福をもって。
あなたの父の祝福は、永遠の山の祝福にまさり、永久の丘の賜物にまさる。
これらの祝福がヨセフの頭の上にあり、兄弟たちから選ばれた者の頭にあるように。」
(創世記49:22〜26)
父ヤコブから最も愛されたヨセフは、兄達から妬みを買い、エジプトへ奴隷として売られていきます。父は彼は死亡したと思い、こうして十数年の月日が流れていきました。悲運の少年ヨセフは、その間、エジプトで苦境を乗り越え、数々の幸運にも恵まれるようになりました。やがてエジプトのパロ(君主)から宰相に任ぜられていきました。この聖書像に照らし、シャガールは「ヨセフの色」を金色としました。金色は、収穫期の麦穂であり、ヨセフの栄光を称える色なのでしょう。又、絵の左上の紫の鳥に高貴なヨセフの生き様を重ね見ました。鳥の頭の冠は、父ヤコブの祝福が彼の頭に注がれることを意味するようです。
絵の頭上に、二つの手に握られたショファール(雄羊の角笛)が描かれています。ヨセフの栄光を称えるかのように、この角笛の音は絵全体に響き渡ります。絵を鑑賞する者の耳にまで響いてきそうです。ユダヤ教の伝統では、角笛の音は、「神の招きの声」であり、真の礼拝への呼びかけです。時には「戦いの時が来た」という警報です。又メシア到来への期待から、霊的な意味での警報でもあります。さて、絵の中のショファールには、当然こうした意味合いが含まれているでしょう。
絵の左下の赤い木もまたヨセフを象徴するものです。ヨセフにはエフライムとマナセという二人の息子がおり、赤い木の二本の太い枝が二人の息子達を指しているといわれています。聖書ではこの息子達は、ヤコブの祝福を受けて、イスラエル12部族の2部族として数えられました。
ベニヤミン[בנימין]
名前の意味:「私の痛みの子」(創世記35:18)もしくは「右側の子」
「ベニヤミンはかみ裂く狼。
朝には獲物に食らいつき、夕には奪ったものを分け合う。」
(創世記49:27)
ベニヤミンは、ヤコブの最後の息子です。ヤコブが愛した妻ラケルは、ベニヤミンを出産して直ぐ亡くなりました。彼の名前には二つの意味があります。ラケルの「痛みの子」であったベニヤミンは、兄弟達から愛されて彼等の「右にいる子」となりました。「右側」は聖書では、力と祝福の形容詞です。シャガールはこの意味を捉えようとしたのでしょうか。絵の中心に11人の兄達を象徴して11個の円を描き、一つ一つの円を、兄達の象徴色で塗りました。ではベニヤミンはどこに描かれているのでしょうか。
シャガールは、絵の左下に赤い目をした狼を描きました。父ヤコブがベニヤミンを「獲物をかみ裂く狼」に例えたように、シャガールも赤い狼で例えました。
赤い狼の背後に、金色に輝くエルサレムが存在します。これはシャガールのエルサレムに対する自信の願望、または祈りなのでしょうか。よく見ると金色の町には城壁が無く、全ての者に開かれた神の都として描かれています。